アベ NO THANK YOU !

平和に参加を、声を上げよう!

危険な安倍政権の「教育再生」政策(2015.1.24の石山久男さんのスピーチ)

2015年1月24日アベ NO THANK YOU !シンポジウムにて、石山久男さんに「危険な安倍政権の『教育再生』政策と題してスピーチをして頂きました。ぜひお読みください。

 

(司会 川嶋みどりさんより)

みなさん、おはようございます。寒いせいもあったり、またインフルエンザが流行していて、まだお集まりが十分ではないと思うのですが、これから今日のメインテーマであります「危険な安倍政権の教育再生政策」について、石山先生をお迎え致しましたのでご講演お願いしたいと思います。

本当にこの日本の侵略戦争と植民地支配を肯定する歴史認識によって、子どもの教育を支配しようとする安倍政権の動きというものから目が離せないのですけれども、私は子育てをとっくに終えて、子どもの教育も済ませてしまった立場なのです。ですから、いつも新聞の見出しを通してしかこの教育問題とか教科書検定には目が向かないのですけれども、しかし安倍首相は、首相になった根底に「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」というのが1997年に創成されて、その議員として、しかもその組織を足場として首相にまでなられたと聞いて、さもありなんと言うか、安倍首相が靖国参拝のことにしても憲法9条の改正にしてもいろんな意味で慰安婦問題にしても歴史認識を国会で問われる度に、歴史認識は学者に任せれば良いとうそぶいているあの態度、どこから来ているかと思ったのですけれど、一番右寄りな歴史認識を持っている首相であることがそういったことを言わせているのだと良く理解できました。それで今、本当に具体的に道徳を特別な教科にしようとか、あるいはいろんな全国学力テストや高校達成のテストをしながら学校の格差を作っていって、ますます受験戦争に拍車をかけようとしている動きですとか、色んな問題が次々と出されている中、特にこの教科書問題というのが歴史認識を左右する上で非常に重要な位置づけにあるということを、私も付け焼刃でございますが、石山先生のご著著などを通して学ばせて頂きました。今日、先生からこのようなお話を伺えること、大変に嬉しく思っております。

簡単に先生のご紹介を致しますが、先生は1961年に東京都立大学の修士課程をご卒業後、高校の先生をされ、そして2006年まで東京都立大学の非常勤講師をされていらっしゃいました。1989年に歴史教育者協議会事務局長になられ、2004年には歴史教育者協議会委員長となられております。そして現在、日本歴史学協会常任委員や子どもと教科書全国ネット21の常任運営委員などをされながら、平和運動や教科書問題へ提言されるなど市民運動を活発に展開されている先生でございます。ご著書もたくさんあるのですが、単著としては「15年戦争をどう教えるか」「近現代史と教科書問題」「日の丸君が代問題」「教科書検定」として岩波書店からもこのような本が出ております。絵本で「戦争はなぜくりかえされる」とう大月書店から出ている本もございます。先生、どうぞよろしくお願い致します。

 

皆さまおはようございます。ただ今、大変過分なご紹介をいただきました石山でございます。アベ NO THANK YOU !という会にお招き頂きありがとうございます。私はこの会に参加させて頂くのは今日が初めてで、皆さんともあまり面識がないですけれども、先日アベNO THANK YOU!の趣意書を送って頂きました。今日の資料の一番最初にその一部を引用してあります。「世界に容認されない間違った歴史認識の教科書で、東アジアの平和を損ねる若者を育てることは、許されません。 ・・・文部科学省は、歴史教科書に国家主義的史観を盛りこむことを義務付けた新しい教科書検定基準の改訂を告示しました。提案された通りの教科書検定基準が採用されれば、東アジア最大の国同士の反目と緊張が強まり、この地域の平和が損なわれてしまう一因となるのは明らかです。」という風に書かれています。私もここに書かれていることに共感致しますし、全く同じような認識を持っているところです。

そこで今日はこの趣意書に書かれている内容を詳しく展開する形でこれからお話を進めさせて頂きたいと思います。時間が限られておりますので、今日お配りした資料について全部詳しくお話することはできないと思いますが、資料的に後でお読みいただければわかるような所は飛ばしながら、決められた時間の中で何とか終えるようにしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

教科書問題というのは、普通の人には大変縁遠い存在で、まだ小学生、中学生あるいは高校生くらいのお子さんがいらっしゃる方はたまに目にする機会もあるかと思いますけれども、そういう子育てももう終わってしまったという方、そういう方には自分とは関係がないと言いましょうか、そんな風に受け止められている方も、皆さんはそうではないと思いますが、一般の世間ではそういう方も多い訳です。そこでまず最初に、教科書の問題がなぜ私たちにとって大切な問題なのかということを先にお話しておきたいと思います。

1ページ目の1として、「いまの教科書はどのようにつくられ、どのように選ばれるのか。」ということで、今の教科書がどういう制度の下で作られているかということを簡単にお話したいと思います。教科書制度というものは日本では明治維新以後ずっとあった訳ですけれど、20世紀に入って間もなく、日露戦争の直前くらいから教科書、とくに小学校の教科書は国定教科書という制度になりました。それから1945年の敗戦に至るまで日本は天皇を頂点とする軍国主義支配の下にあった訳ですけど、その中では国民を政府の方針、政府が戦争をやると言えば全面的に協力するという、そういう国民を育てるために教育を最大限利用してきた訳ですね。そこで今、ご年配の方の中に、自分はそれで軍国少年になった、軍国少女になったとおっしゃる方も大変多くいらっしゃいます。そういう風にして、戦前の教科書国定制度の下で教育の内容は全部国が決めて、それを全部国が各市町村の隅々に至るまでその方針を徹底させるというのが戦前の教育の在り方でした。

新しい今の憲法ができて、今度は第9条を中心に戦争をしない国にするんだということになった訳ですから、戦争ができるような仕組みはいろんな所で全部変えていかなくてはならない、9条だけが突出して、一つだけそういう条文があっただけでは戦争をしない国というのはできない訳で、今の憲法でもいろんな条文を繋ぎ合わせながら全体として戦争ができないような仕組みを作っているのですね。その一つとして教育の制度でも、教育委員会という地方分権の新しい制度ができ、そこには政治が介入してはいけないという原則も作られました。教科書も国定制度にして、全国で一冊しかない、これで子ども達全員、日本中の子ども達が学ぶんだ、という事になると国民の物の考え方が一つの型にはめ込まれてしまう、それはいけないから教科書は基本的には原則として民間で作るというふうに敗戦後改めた訳ですね。そういう事で教科書の国定制度、戦争を日本が進めるうえで大きな役割を果たした教科書国定制度を廃止して、検定制度となりました。この検定制度も敗戦後にできてから今日に至るまでいろいろな変遷があって、段々に文部科学省の統制が行き届くような制度に変えられてきました訳ですけれど、現在は文科省に教科書調査官という常勤の調査官がいて、それぞれの科目の専門家が入っているのですけれど、ただ専門家の中からどういう人を選ぶかというところになると文科省が自分で決められる訳です。ですから、文科省の考え方と違うような考え方の人は決してこの教科書調査官には任命されないということなのですね。その教科書調査官が検定教科書が文科省に提出されますとそれをチェックして、そしてこことここを修正させるとか、ここは修正箇所が多過ぎるから検定不合格だとか、そういう原案を作り最終的には検定審議会という、専任の職員ではなくて大学の先生とかそういう人を集めた検定審議会というところで最終決定するのですが、9割以上が文科省の教科書調査官という人が作った検定意見、修正案の通りに決まって、文科省の思い通りの教科書ができるというシステムになっています。不合格にならなくても、合格する場合でもいろいろな修正意見というのが付けられますので、それをその通りに修正をしないと最終的に合格しません。合格しませんと教科書会社はせっかくお金をかけて作ったのに全く売れないという事になってしまいますので、修正意見を何とか受け入れて、教科書を仕上げるという訳です。

もう一つ大事なことは、検定制度ですから、少なくとも複数の教科書がある訳ですね。その複数の教科書の中からそれぞれの学校がどの教科書を使うかという問題があります。これが採択と言われている制度です。高等学校の場合は、学校毎で採択する教科書を決めるシステムになっている訳ですが、それがちょっと怪しくなってきています。小学校の場合は、当初は学校毎で決めていたのですね。1963年になると教科書無償措置法という制度ができました。義務教育の教科書は全部国が費用を負担して、無料で小中学校の生徒に配るという制度になった訳ですね。これは当然、国民の要求として憲法にも義務教育は無償とすると書いてあるから教科書を有料で買わせるのはおかしいじゃないかという運動があって、ようやくその要求が実って教科書は小中学校、つまり義務教育については無料で配られることになった訳ですが、それを機会に今度は、採択は学校毎ではなくて、市町村単位あるいはそれをもっと広げた複数の市町村単位とかそういう大きな広域の地域の中で一種類の教科書を選ぶ、それを決めるのは教育委員会だという制度に変えたのですね。この制度が現在も続いておりまして、私立とか国立とかはそれぞれの学校で決めますけれど、いわゆる市町村立か都道府県立という公立の学校は全国で約五百数十の採択地区というのに分けられていまして、これが一つの市とか町でできている場合もありますが、大部分は複数の市町村がまとまって一つの採択地区を作って、その一つの採択地区毎で全く同じ教科書を地区内の学校は使うという制度になっています。これを利用して教育委員会にいろいろな右翼的な団体が圧力をかけて、新しい歴史教科書を作る会というのが十数年前にできた訳ですが、その教科書を採択させようという事で、いろいろな動きが出てきたということになっています。

これが日本で行われている制度なのですが、諸外国と比べると一体どうなのか、どこの国もそんな制度でやっているのかというと、それが違いまして日本の制度は特殊な制度なのですね。まず、検定という事について言いますと、アジア諸国ではこの検定制度を採用している所が多いです。ですが、この日本の文部科学省のような教育を司る官庁が直接検定をやっているような所は殆どありません。専門家の集団で検定をやるというのが普通のやり方で、戦後日本も1963年まではそういうやり方で検定をやっていた訳です。そしてヨーロッパ、欧米諸国になりますと検定制度そのものが無いですから、学校で好きな教科書を選んで、好きな本を選んでそれを教科書として使うことができる制度となっている所が多いですね。勿論、そういう所でも予め教科書として使えるようにという作り方をした本もありますから、そういう本の中から教科書として使えるどれかを選ぶ、という形です。日本のように政権や教育を司る文科省のような役所が教科書の内容に関与して、修正させたりするような制度を取る国はあまりない。それから採択ですけれど、日本のような広域の地域でまとまって一つの教科書を採用する制度を取っている所はアジア諸国も含めて世界では稀です。確かマレーシアで一国だけそういう制度を取っている所があるようですけれど、お隣の中国、韓国でも教科書は全部学校毎で決める、ということになっていますから、この制度も世界的に見ると異常な制度ということなのですね。そういう背景があって今の教科書を巡る問題がいろいろ起こっているということなのです。

2番目の「なぜ教科書が社会問題になるのか。」これは、皆さんもだいたい日本の学校教育を経験してこられて、やっぱり学校教育の中で教科書というのが本当に大事にされると言いますか、一冊で全部授業が行われているということが多かったと思うのですね。日本では戦前は勿論政府の統制も行き届いていますから、教科書から外れたことを教えてはならない、教科書に書いてあることをそのまま教えなさい、そして中には暗記させなさい、こういう教育が戦前の教育のやり方の中心でした。そういうやり方をしたお蔭で政府の方針通りにみんな、国民が物の考え方が一つの考え方、型にはめられていくということになってしまった訳なのです。ですから、教科書が非常に大事にされてきて、それが一種の教える中身の基準になってずっと日本の教育は行われてきた。戦後、そういう戦前の教育の在り方について、反省したはずなのですけれど、教科書の在り方についてはどうだったかと言うと、実は教科書の位置づけということでは残念ながら戦後あまり大きな変化はありませんでした。確かに教科書は国定ではなくて複数の教科書が発行されるようにはなりましたけれど、その教科書はやっぱり戦前と同じように学校の中で、教育の中でとても大事にされて、これが一つの基準となってなかなかそれ以外の事を自主的に考えるということは特別にその方面を深く研究している先生が独自にやられているというケースもありますけど、一般的にそういうことは殆ど無くて、戦前と同じように教科書を教えるという形になりました。そういう訳で、戦後の場合も教科書が、とかく政府が国民にこういう考え方になってもらおうというふうに考えた時の基準になる、そういう事で政府のいわば国民に対する支配の道具にされるという状況が戦後もずっと続いている結果になってしまった訳です。そこで政府の方も検定制度を使って教科書の内容を政府の思い通りの形になるように仕上げていく、そして今度は採択する。教科書を選ぶ場面でも学校の先生が自分で考えて選ぶのではなくて、教育委員会というお上の組織が教科書を決めてしまうという事で検定と採択の両方の面で教員の自主性が奪われていきました。奪われてくるとそれによって教科書の内容が書き換えられるということがいわば非常に政治の問題と大変大きく絡んでくる訳ですね。政府としてはある政治的な目的の下に色んな政策を実行してくる訳ですから、その政治的な目的、政府の目的に合うようにどうしても教科書の中身が変えられていく、という事で戦後の教科書制度の中でも特に戦争について教科書にどう書くか、常に大きな社会問題になっています。そういった動きが今日まで続いてきているという結果になっている訳です。

戦後の流れについては、2ページの3の「教科書検定と教科書の内容をめぐるせめぎあい」というところで簡単にまとめてありますけれども、政府の方も常に教科書の内容に注目し、政府の思い通りにならないような教科書が出てくると、その教科書をこれはけしからんと言って攻撃するという事が行われて来ました。1950年代が第一次教科書攻撃と言われていますけれども、これで結局検定が非常に強化されてしまった。それに対して家永三郎さんという方が高校日本史の教科書を執筆されておられたのですけれど、それについてあまりにもたくさん検定意見が付き、それが余りにも自分の考え方と全く正反対、歴史研究者としての良心に基づいて書いた内容を文科省の考え方で書き換えさせられるのは我慢ができないという事で1965年に教科書裁判というのが起こされまして、70年には東京地方裁判所で今の検定のやり方は憲法違反であると判決が出されることもあり、70年代になり一定程度、教科書にある程度の自由が少し拡大されてきたのです。それに対して巻き返しを図ったのが79年から始まる第二次教科書攻撃なのですが、ちょうどその時期に中国や韓国からも日本の戦争の記述について教科書検定の中で事実を歪めていると、侵略であるのに侵略と書かせない、これはおかしいじゃないかと抗議があり、当時の政府はアジア諸国との関係をもう少し大事にしようという考え方の下にそうした中国や韓国からの抗議をある程度受け入れて、近現代の近隣諸国との関係については国際理解と国際協調が進むような書き方で教科書を作るべきだという検定基準が新しく設けられました。これは教科書の関係者の中では近隣諸国条項と呼んでいるのですけれども、この近隣諸国条項というのができた為に80年代後半以降は特にそれまで検定意見がたくさん付いた例えば侵略という書き方、具体的にも南京虐殺事件とか朝鮮人、中国人の強制連行とかそういった戦争に係る事実について教科書に書いてもそれを検定意見を付けて書き直させる、例えば侵略という言葉が駄目だから進出に直せとか、南京大虐殺のことをそんな大きく書くな、人数が二十万と書くのは駄目だとか、そういう検定意見は80年代後半以降付けられなくなったので、割と戦争の事実についてはかなり自由に書けるようになったのですね。その後93年には日本軍慰安婦問題で河野官房長官談話というのが出されて、日本軍慰安婦には当然、軍の関与があったと、そういう悲劇を繰り返さないために教育を通じて日本の国民の中にその事実を広めていくという談話が出されましたので、この後一斉に日本の中学校の教科書の中でも慰安婦問題を記述するようになりました。それについても勿論検定意見は付きませんでしたから、97年の4月から使われるようになった中学校の教科書は当時7社、7種類の教科書がありましたけれど、全部慰安婦という言葉が入った訳です。これに対して攻撃が起こったのが90年代の半ば、後半になって新しい歴史教科書をつくる会というのが藤岡信勝さんが中心となって、特にこの慰安婦問題に激しく攻撃が行われました。検定意見としてそれを直させるということはもはや文科省にはできないので、新しい歴史教科書をつくる会は自分で自前の教科書を作ると同時にそういう慰安婦問題を詳しく書いてある教科書は採用するな、学校毎で学校の先生が自分で判断して教科書の採用を決めるのであれば、それでは統制が行き届かないから教育委員会で教科書は全部決めろ、というような仕組みを90年代末から2000年にかけて作ったのです。それで初めて今、育鵬社版、自由社版という形で残っている教科書が2001年から検定に合格してできるようになる訳です。

97年版の慰安婦の記述がどうなっていたかと言うと、そこに7社の記述が挙げてありますので後でご覧下さい。ところが2002年版になりますと慰安婦という言葉で教科書を書いているのは日本書籍という会社一冊だけになってしまいます。清水書院と帝国書院の教科書は慰安施設という言葉で書いてあるのですが、その他の教科書は全部、この慰安婦という記述を消してしまいました。2006年版になりますと、帝国書院はそのまま慰安施設という記述を残しましたが、日本書籍は2002年版で慰安婦という事をはっきり書いた為にものすごく攻撃されて、採択がすごく減らされたのですね。それで止む無く日本書籍は2006年版では慰安婦の記述を削りました。ただ、戦後補償のところに書いた記述、日本の戦後処理というページに元従軍慰安婦ら25人が提訴した、という新聞記事を図版で掲載したのですが、その他については慰安婦に関する記述はなくなった結果になり、2012年にはちょっと私たちの運動もあってですね、東京書籍がほんのちょっとですが復活させたのです。「朝鮮人や中国人の動員は女性にもおよび、戦地で働かされた人もいました。」女性が動員されて戦地で働かされていた、これをどう読むでしょうかということなのです。ですから、読み方によっては慰安婦問題も教科書に書いてあるからという事で取り上げることが可能な形にはなったのですが、この頃アメリカなどでは兵隊に女性が多いし、日本でも自衛隊の中には女性の隊員もいますから、戦地で働かされたと言ってもああそうか、日本の自衛隊に女性がいるからそういう形で働かされたのかな、というふうに思ってしまう場合も多いかもしれません。東京書籍だけはそういう形になっています。

但し高校日本史の場合は今15冊あるのですが、その内13冊が現在も慰安婦が記述されています。この事が恐らく高校の教科書が大きく攻撃されて慰安婦の事など書いてある教科書は採用するな、と圧力がこれからかかって来るだろうと思います。そんな形で教科書を巡って今まで大きなせめぎ合いがずっと行われてきた訳です。

その中で、3ページの4番のところに参りますけれど、今、検定制度の中で検定基準というのが昨年の1月から大きく変えられました。詳しく述べている時間はありませんが、もう一つ、学習指導要領の解説というのが文科省から発行されていまして、これも大きく変えられたのですね。検定基準が変えられたので、近隣諸国条項という先ほど言った条項はそのまま残っているのですけど、簡単に結論的に言うと、安倍政権の歴史認識と反するようなことはあまり書くな、という事になります。学習指導要領の解説の改訂では、一つは尖閣諸島とか竹島とか日本、韓国、中国の間で争いになっている領土問題を小学校でもちゃんと書け、という事になったのですね。もう一つは災害支援の時に自衛隊という事をちゃんと書け、という事が言われました。実は今年、新しい学習指導要領の下での小学校教科書が昨年検定に合格して採択が決まり、今年の4月から新しい小学校の教科書が使われることになるのですが、この小学校の教科書では今言ったような検定基準の改正や学習指導要領の解説の改訂がもろに反映して、小学校の社会科の教科書4冊、4種類あるんですけれど竹島と尖閣諸島の問題、全部詳しく書いています。あとは戦争の記述について日本の戦争での残虐行為とかそういうのを出来るだけ曖昧にして、あたかも戦争が正しかったかのような記述に変える教科書がたくさん出てきた。詳しくは3ページのところに書いてありますので後でご覧になって頂きたいと思いますけれど、一つだけ例を挙げれば、韓国併合について教育出版という所の教科書は今まで石川啄木が韓国併合について疑問を呈した歌「地図の上 朝鮮国にくろぐろと すみをぬりつつ秋風をきく」という歌がありますが、これを教科書に載せてこういうふうに韓国併合に疑問を感じた人もいました、という記述を本文でも書いていたのですが、全部ばっさりと削りました。石川啄木の写真の代わりに当時の政府高官の小村寿太郎の写真が載るなど、戦争や植民地支配に対する記述を曖昧にする事が起こっています。そういう事ですから、今年これから行われる中学校の検定合格があって、来年から使われる中学校教科書の採択が今年行われる訳ですけど、そこに出てくる中学校の教科書というのはつくる会系の育鵬社版、自由社版以外の教科書も今申し上げたように小学校の教科書が変わったようにかなり大きく変わってくるのではないかと予測されます。ただ同時に、今年の教科書の採択の中では育鵬社版、自由社版二つの種類の、正に戦争を美化する教科書がその中に参入してきますから、そして安倍政権やそれを支えている右翼権力や日本会議などの人達は議会や首長などの権力を利用してこの教科書、育鵬社版、自由社版を採択しろという圧力を相当大きくかけてくることが予想されます。ですから、今年の8月までに採択が決まりますけれども、その間私たちが力を集中しなければならないのは、育鵬社版、自由社版の採択を出来るだけ減らして、できれば息の根を止めたいというのが一番中心的な課題になると思います。

4ページの「採択を巡る厳しい情勢」というところで書いてありますけれど、今年は特に安倍政権の下で右翼的な勢力が大変勢いづいています。そして地方教育行政法が変えられて、首長が教育行政に介入できる余地が広がってきたのですね。そういう事を利用して日本会議の方では教育再生首長会議というのを昨年6月に結成しました。その中心的な目的は、教育再生というといろいろありますけれど、まずは今年の採択で育鵬社版、自由社版の教科書の採択をあらゆる手段を使って大いに伸ばすということを最大目標にしてこれからいろんな形で議会へ圧力をかけたり、教育委員会へ圧力をかけたりということをやってくる可能性がありますので、今年は今まで以上に育鵬社版、自由社版という戦争を美化する教科書、戦争を反省しない教科書、これが多くの子ども達の手に渡る可能性が、危険が非常に大きいということを言わなければなりません。今、横浜市では育鵬社版の歴史、公民の教科書を全部使っているのですけれど、学年毎で二万数千冊という横浜市立の学校に通って来る生徒達がみんな使っています。そうするとその子たちが高校に行っても育鵬社版の教科書で教えられた子どもというのは大変なのですね。先生にも勿論よると思いますけれど、「日本がやった戦争は正しかったんでしょ。」と高校の歴史の先生に堂々と言う子どもたちが出てきているそうですから、やっぱり教科書の影響というのは大きいですね。そういう教科書が昨年以上に、今以上に増えてきたら、そういうふうに考える生徒が増えてくるかもしれない、そして憲法改正ということが国民投票にかけられると18歳から投票することになりますから、高校卒業する直前からもう選挙権があります。そういう高校生を育てれば、やはり戦争賛成の方向に憲法改正の国民投票で投票する人が多くなってくる、こういう事態になる訳ですから何としても今年は育鵬社版、自由社版の教科書の採択を止めなければいけないという事で、とにかくこの教科書がどういう教科書なのか事実をまずおおいに広げていかなくてはいけないですね。割と今年の場合はかなり多くの地域で昨年末くらいの段階からこの教科書の問題で学習会を始めている地域も多くなってきましたから4年前とはだいぶ違います。多くの人達がこの問題に危機感を強めているという現れだと思いますから、そういう事で大いに運動を広めて行きたいと思いますけれども、皆さんそれぞれの地域でもできるだけ出足早く、今年はこういう教科書が中学校で採用されるかもしれないということを多くの市民の方々に知らせて行く活動をまず展開する必要があります。そしてその後は一応、地方教育行政法が改訂されましたけれども教科書の採択は基本的には首長がこれに介入したり教育委員会と相談したりする事はあってはならないという建前になっていますので、その建前通りに教育委員会が現場の意見を聞いて、現場の意見に沿って教科書を採択するような働きかけを教育委員会に対してもやっていかなければならない。ですから、多くの事実を市民に知らせる事と、教育委員会に対しても現場の意見に基づいてそんなおかしな教科書を採用しないようにしてほしいという訴えをしていく必要がある。細かくはそこに7項目書いてあり、特に先程も言いましたように、政治の動きが教科書の採択に介入してくる危険が非常に大きいです。これはまず具体的にどういう人たちが始めるかと言うと、市町村の議会の中の日本会議に所属している議員の人たちです。これは大体ホームページとか見るとわかりますので、大体どの市町村にもいますので、そういう人たちが議会で質問をしてこの問題を取り上げたり、また教育委員会にいろいろ働きかけたりする動きが起こってくる可能性がありますので、そこは是非注意をしながら、もしそういう動きが起こったらすぐそれに対して反論するという動きを強めていく必要があるかと思います。

5ページから6ページにかけてその問題の育鵬社版、自由社版の歴史・公民の教科書のどういう所が問題かと言う事は読んでいただければお分かりになると思いますので、後でお読みいただきたいと思います。

それで、今年新しく採択にかけられる教科書は新しい改訂版なのですけども、ただ学習指導要領が変わっている訳ではありませんので、先程言いましたように育鵬社版、自由社版以外の教科書は何か戦争を美化するような方向に変えられる可能性がありますが、育鵬社版、自由社版は元々そうなのでこれをあまり大きく変える可能性がないと思いますので、5ページから6ページに書いてある問題というのはたぶん今度検定に合格して出てくる教科書にも殆ど同じことが言える中身になると思いますので、そこのところを是非お読み頂きたいと思います。

全体として6ページの7番のところですが、結局安倍政権は戦争をする国を目指したい、それと安倍政権に政治献金をたくさんくれる大企業、財界の意向に基づいて世界で最も大企業が儲かる国にしたい、という二本柱が結び付いて一つになっているのが軍需産業の問題です。皆さんもご承知かと存じますが、安倍首相は一生懸命外国に行って武器を売り込んだり、原発を売り込んだりしています。そうすれば軍需産業が儲かります。でも平和であれば軍需産業を増やす必要はない訳ですから、平和でないということを強調しなければならないので実際には殆ど起こる可能性がないアジアで尖閣諸島を巡って日本と中国が戦争をするかもしれないとあおり立てて、危険だから軍備増強しなければならないと言う。こういう事をずっと言い募っている訳です。ですからこの動きを止めて、つまり安倍政権は日本を守る事とは殆ど関係のない中東とかそういう所に行って、自衛隊を派遣して、戦争をやって武器を消費して、また武器を作る大企業が儲かるようにする。武器を作る大企業が儲けられるというのは一般の民間では作れませんので、政府が委託して作らせる訳です。ですから私たちの税金が軍需産業に全部投入されて、軍需産業を中心とした大企業が大いに儲かるという仕組みを安倍政権は作ろうとしているという事を私たちは多くの市民に伝えていかなくてはならないと思います。それと蜜に繋がっているのが、つまりそういう事に賛成する国民を、戦争することに賛成する国民を育てなければ、軍需産業に税金をつぎ込んで武器を作る事ができないので、そういう子ども、国民を育てる為に今の安倍政権の教育政策があるのだ、教科書の政策があるのだという事を訴えていきたいと思っております。時間も延びてしまったので、以上で終わります。

コメントは受け付けていません。